朝の霧が立ち込める静かな街角や、日が沈みゆく一瞬の曖昧な空の色。
そんな「捉えどころのない美しさ」を自分の表情に宿せたら、どんなに素敵でしょうか。
「アンニュイ(ennui)」という言葉はフランス語で「倦怠感」や「退屈」を意味しますが、美容の文脈においては、単なる疲れや無気力ではなく「どこか遠くを見つめているようなミステリアスな空気感」や「飾り立てないことで生まれる、大人の余裕と儚さ」を指します。自分の欠点さえも風景の一部として受け入れる、強くて優しい美意識の表れでもあります。
この記事では、アンニュイメイクの真髄を余すところなくお届けします。小松菜奈さんや椎名美月さんのような圧倒的な透明感と独自のオーラを纏うための方法を、一歩ずつ丁寧に紐解いていきましょう。
また、アンニュイという曖昧な概念は当サイト独自の美学「水晶の病骨」という視点で解体しています。なぜ私たちは、完成された完璧な美よりも、どこか壊れそうな、彩度の低い存在に惹かれるのでしょうか。
アンニュイメイクとは
アンニュイメイクとは、物憂げな儚さとミステリアスな色気を纏う「温度感の低い」メイクのことです。血色感や造形を強調するのではなく、あえて「引き算」や「影」を味方につけることで、読めない感情の奥行きと圧倒的な透明感を生み出します。
私たちが日常的に行うメイクの多くは、「足りないものを補う」あるいは「目鼻立ちをはっきりとさせる」ことに主眼が置かれがちです。しかし、アンニュイメイクの根底に流れるのは、徹底した「引き算」と「曖昧さ」の美学です。
アンニュイメイクのポイント
アンニュイな表情を作る上で最も重要なのは、顔全体の温度を下げることです。頬を上気させたような健康的な赤みや、太陽の光を浴びたようなオレンジ系のヘルシーさは、あえて影を潜めさせます。
寒色系がもたらす「静寂」
代わりに選ぶのは、肌の内側から透き通るようなラベンダーやブルー、そして静かな影を演出するグレージュ。この冷たさこそが、読者の視線を惹きつけて離さない、都会的な切なさを生むのです。
質感で語る「感情の揺らぎ」
色だけでなく質感も重要です。ギラギラとした輝きよりも、しっとりとしたマットや、水を含んだような微細なツヤ。言葉にできない感情の揺らぎを表現します。
境界線をぼかし、余韻を残す
「完璧なライン」を引かないこともアンニュイメイクの鉄則です。きっちりとした造形は、見る者に安心感を与えますが、アンニュイさが求めているのは未完成の美です。
視線を惑わせる「影」の正体
アイラインをきっちりと引いて目の輪郭を縁取るのではなく、アイシャドウの濃淡でまぶたに影を落とす。リップも輪郭を縁取らず、中央から外側へ向かって指でトントンと滲ませる。この「曖昧な境界線」が、見る者に「もっと知りたい」と思わせる隙を生み出し、表情に深い奥行きを与えます。
アンニュイメイクが似合う有名人たちが教えてくれる「ミューズの条件」
アンニュイメイクを理解するために、象徴とも言える二人の有名人、小松菜奈さんと椎名美月さんのスタイルを深く分析してみましょう。
小松菜奈:三白眼と「毒気」のある儚さ
小松菜奈さんの美しさは単なる「可愛い」の枠には収まりません。彼女の最大の魅力である「三白眼(黒目がやや上に位置し、下の白目が見える瞳)」は、かつてはコンプレックスと捉えられることもありましたが、彼女はそれを「アンニュイな武器」へと変えました。
下まぶたに宿る「重力」の美学
彼女のメイクの核は、下まぶたに重めに置かれたアイシャドウにあります。上まぶたを強調するのではなく、下まぶたに深みを持たせることで、視線の重心を下げ、物憂げで少し気だるい「重力」を感じさせる眼差しを作っています。これが、彼女特有のミステリアスなオーラの源泉です。
飾らない素肌の質感と「生っぽさ」
彼女は時折、自身のそばかすやほくろをあえて隠さずに見せることがあります。作られた美しさではない一人の女性としての生っぽさを感じさせ、アンニュイ特有の毒気とピュアさの共存を可能にしているのです。
椎名美月:透明感の極致「都会の静寂」
椎名美月さんが纏うのは、まるで洗いたてのシーツや雨上がりの空気のような、清潔感溢れるアンニュイさです。
光を透過させる「フィルター肌」
彼女のベースメイクは、塗っていることを感じさせないほど薄膜でありながら、内側から発光するような透明感を湛えています。マットに転びすぎず、かといって過剰なツヤも出さない。まるですりガラス越しに肌を見ているような、絶妙な「透け感」が、彼女の都会的で知的な印象を支えています。
ニュアンスカラーの「ワントーン設計」
椎名さんのメイクは目元、チーク、リップの色相が非常に近くまとめられていることが多いです。ワントーンに近い色設計にすることで、特定のパーツが主張しすぎず、顔全体の雰囲気が一つの景色のようにまとまるのです。
【実践】アンニュイメイクを行うためのステップ
それでは、実際にどのようにメイクを構築していくべきでしょうか。パーツごとにエモーショナルな視点を交えた具体的なテクニックを解説します。
ベースメイク:素肌を透過させる「静謐な肌」
アンニュイ肌の目標は「触れたら消えてしまいそうな透明感」です。健康美をアピールするのではなく、どこか現実離れした透明な質感を目指します。
ブルーとパープルで黄みを消し去る
まずはラベンダーやブルーのコントロールカラーを顔の中心から薄く広げ、肌の黄みを抑えます。これにより、肌のトーンが均一になり、冷たさを帯びた静かなベースが整います。後から乗せるアイシャドウの発色を劇的に変えてくれます。
ミニマムなカバーが重要
ファンデーションは、リキッドやクッションタイプを最小限に。特に小鼻の赤みや目の下のクマなど、どうしても気になる部分だけにポイントで乗せるのがコツです。完璧にカバーしすぎると、アンニュイに必要な「隙」が失われてしまいます。仕上げのパウダーも、テカリやすい部分だけに留め、頬や鼻筋には自らの肌が放つ湿度を残しましょう。
アイメイク:深淵を覗かせる「影のレイヤード」
目元は、自分の内側にある感情を映し出す鏡です。ここでは「見せる」ことよりも「潜ませる」ことを意識します。
くすみカラーで作る情緒的な影
アイシャドウは、くすんだモーヴピンクやグレーを基調に選びます。まずアイホール全体に薄く色を乗せたら、同じ色を下まぶたのキワにも広げます。このとき目尻側を少し重めに、タレ目気味にぼかすことで、小松菜奈さんのような「憂い」のある形を作ることができます。
繊細なセパレートまつ毛の重要性
アイライナーは黒ではなくダークブラウンやグレーを選択し、まつ毛の隙間を埋める程度に。マスカラは、ボリュームよりも長さを重視します。まつ毛一本一本が綺麗にセパレートされ、瞬きするたびに繊細な影が頬に落ちるような仕上がりが、アンニュイな情緒を完成させます。
アイブロウ:野生と洗練が同居する「毛流れの主張」
眉は、その人の意思を表す重要なパーツです。アンニュイメイクでは眉を「描く」のではなく「整える」感覚を大切にします。
眉山を潰し、平行気味に整える
眉山を強調しすぎると活発な印象が強まってしまうため、あえて山を削り、平行からやや下げ気味に描きます。これにより顔全体に脱力感が生まれ、アンニュイな空気感が加速します。
クリアマスカラで「生え際のリアリティ」を
パウダーでふんわりと形を整えたら、仕上げにクリアな眉マスカラで眉頭の毛を上向きに立たせます。この「毛流れのばらつき」が作り込みすぎない野性的な生命力を感じさせ、顔全体に自立した女性の強さをプラスしてくれます。
リップ:感情が滲み出す「曖昧な唇」
唇は、言葉を発する場所だからこそ、最も多弁なパーツです。きっちりと縁取られた唇は意志の強さを感じさせますが、アンニュイメイクでは「語りすぎない」ことが美徳となります。
コンシーラーによる輪郭の消去
まず、自分の唇の輪郭をコンシーラーで軽く叩いて消します。どこからが唇で、どこからが肌なのかを曖昧にします。
じゅわっと滲む血色
色は、少し深みのあるベージュやモーヴを。唇の中央に色を置き、外側に向かって指で優しく叩き込みます。じわっと内側から色が滲み出したような仕上がりは、まるで熱を帯びた吐息が唇に色をつけたかのよう。マットすぎず、ツヤすぎない質感が、より大人っぽく落ち着いた印象を演出します。
アンニュイを完成させる、至高の2アイテム
アンニュイな表情を作るために私がプロの視点から自信を持っておすすめするのが、この二つのコスメです。
HOLIKA HOLIKA マイフェイブムードアイパレット 02 ムーニー MOONY
HOLIKA HOLIKAのアイパレットは、まさに「月夜の静寂」を詰め込んだような色設計です。
絶妙なくすみが織りなす魔法
全9色のグラデーションは、どれも絶妙なくすみを含んだモーヴやグレージュ。ラメは控えめで、しっとりとしたマット質感がまぶたに溶け込み、自然な陰影を演出します。特に中央のくすみピンクは、肌に馴染みながらもどこかミステリアスな色気を放ち、下まぶたに忍ばせるだけで一気にアンニュイな顔立ちへと導いてくれます。
質感のレイヤードで奥行きを
粉質が非常に細かく、重ねても厚ぼったくならないのが特徴です。その日の気分に合わせてグレーを強めればよりクールに、モーヴを強めればより儚げにと、表情を自在に操ることができます。
エクセル グレイズバームリップ GB09 セピアモーヴ
エクセルのリップは「憂いを含んだくすみピンクモーヴ」という公式の説明通り、一塗りで顔全体に深い情緒が宿る名品です。
バームのような潤いと「大人モーヴ」の出会い
濃厚なテクスチャーが唇に密着し、乾燥から守りながら贅沢な発色を叶えます。この「セピアモーヴ」という色は、決して派手ではないのに、塗った瞬間に肌の透明感を引き出し、都会的なセンスの良さを感じさせてくれます。
誰にでも似合う「アンニュイの正解」
青みが強すぎないモーヴなので、パーソナルカラーを問わず使いやすいのも嬉しいポイント。指でポンポンと乗せれば、まるで映画のワンシーンのような余韻のある口元が完成します。
美意識のその先へ。エシカルな選択がもたらす「内面からのアンニュイ」
私たちが「美しい」と感じるアンニュイな雰囲気。それは、外見的なテクニックだけで作られるものではありません。
自分を慈しむ、エシカルなコスメ選び
筆者の個人的な感覚ではありますが、一人の人間として大切にしたいのは、私たちが美しさを手に入れるために、何を選択するかです。エシカルコスメを選ぶことは単なる肌への優しさではなく「犠牲の上に美を築かない」という強い自己規律の表明です。
アンニュイメイクが放つ「静かな強さ」は、自らの信念と行動に矛盾がないことから生まれます。動物実験を行わない「クルエルティフリー」や、不当な労働を排除した透明性の高い原料調達。こうした「誰も傷つけていない」という精神的な潔白さこそが、表情に揺るぎない品格と、曇りのない透明感を与えるのです。
成分の背景にある倫理にまで責任を持つ。その徹底した誠実さこそが、アンニュイな表情に潜む「圧倒的な深み」の正体であり、大人の女性が纏うべき真の美学ではないでしょうか。
完璧を求めない勇気が、個性を磨く
現代社会では常に「正解」や「完璧」が求められます。しかし、アンニュイメイクが私たちに教えてくれるのは、「不完全であることの美しさ」です。
少しクマがある目元も、左右非対称な唇のラインも、それこそがあなたの人生が描いた唯一無二の模様。メイクでそれらを完全に消し去るのではなく影として活かし、美学に変えていく。そのプロセスそのものが、あなただけの「アンニュイ」を形作っていきます。
まとめ|アンニュイメイクは自由になるための翼
ここまでアンニュイメイクの作り方と、その背景にある美学について深く語ってきました。
アンニュイメイクとは、決して「暗い顔」をしたり、「不機嫌そう」に見せたりすることではありません。自分の感情に蓋をせず、ありのままの質感で世界と向き合うための、最も自由で贅沢な表現方法なのです。
小松菜奈さんのような芯のある毒気、椎名美月さんのような透き通る静寂。それぞれのミューズからエッセンスを受け取りつつ、最後はあなた自身の肌の色、瞳の形、そしてその日の心の揺れ方に合わせて自由に色を遊ばせてみてください。
今回ご紹介した HOLIKA HOLIKA のアイパレットやエクセルのセピアモーヴは、あなたのそんな新しい旅路を支える心強い相棒となってくれるはずです。
鏡の中の自分を見つめたとき、もしそこに見慣れない「憂い」や「深み」を見つけられたなら、それはあなたが新しい美しさの扉を開いた証。完璧な美しさに疲れたときは引き算に立ち返ってみてください。そこには誰にも邪魔されない、あなただけの穏やかで美しい時間が流れているはずです。
自分を愛でること。自分の影さえも愛すること。アンニュイメイクを通じて、あなたがあなただけの物語を紡いでいけることを、心から願っています。
